遺言書作成・活用編① 遺言書がないとどうなる?残された家族が直面するトラブル
◆◇遺言書を書く意義は?◇◆
「遺言書を書く」という行為は、ご自身の死後の手続きの話であると同時に、残された家族に対する最大の思いやりでもあります。
もし遺言書がないまま相続が発生すると、故人の財産は一時的に「相続人全員の共有物」となり、その後の財産分割はすべて残された家族の話し合い(遺産分割協議)に委ねられます。この「話し合い」こそが、家族を苦しめ、関係を壊す「争族」の最大の原因となるのです。
ここでは、遺言書がない場合に家族が直面する、具体的なトラブルと負担を解説します。
トラブル1:財産が凍結され、生活に支障が出る
遺言書がない場合、金融機関は相続人全員の合意(遺産分割協議)が成立するまで、故人名義の預貯金口座を原則として凍結します。
困ること: 故人の葬儀費用の支払い、入院費の精算、残された配偶者の当面の生活費など、急な出費に対応するための現金が引き出せなくなります。
解決策: 凍結を解除するためには、相続人全員の印鑑証明書と、遺産分割協議書などの複雑な書類提出が必要です。この手続きが長引けば長引くほど、残された家族の生活に支障が出ます。
トラブル2:「分けにくい財産」を巡る争い
遺言書がない場合に最も揉めるのが、均等に分割できない財産、特に**不動産(実家や土地)**です。
揉める理由: 「長男が家を継ぐべきだ」「二男は都会に住んでいるから現金をもらうべきだ」といった、家族間の価値観や過去の感情がぶつかり合い、誰も譲らなくなります。
最悪の事態: 協議が決裂すると、不動産を売却して現金化する(換価分割)か、裁判所での調停・審判に持ち込まれることになり、家族関係が断絶に至るリスクが高まります。
トラブル3:相続人調査の煩雑さと遺産分割の長期化
遺言書があれば、その中で相続人が明確に指定されますが、遺言書がない場合は、誰が相続人であるかを戸籍謄本を遡って証明しなければなりません。
負担: 故人の出生から死亡までのすべての戸籍を、本籍地を転々とした役所すべてから集めるという、非常に煩雑で時間のかかる作業が発生します。
隠れた相続人: 故人に認知した子どもや養子がいた場合、戸籍を完璧に集めないと、「隠れた相続人」の存在を見落とし、後からその人物が現れて遺産分割協議そのものが無効になってしまうリスクもあります。
遺言書は「最後のラブレター」
遺言書を作成することは、単に財産を分ける指示書ではありません。それは、「残された家族に面倒をかけたくない」「自分の財産で争わないでほしい」という、故人からの「最後の願い」や「想い」を伝えるメッセージです。
特に、不動産があるご家庭、お子さんがいないご夫婦、再婚などで家族構成が複雑なご家庭は、遺言書がないことで発生するトラブルのリスクが跳ね上がります。
家族の絆を守るためにも、ぜひ元気なうちに公正証書遺言を作成し、残された家族への思いやりを形に残しましょう。


