基礎知識・入門編⑥ 相続財産に「負債」も含まれる?マイナスの財産の扱い
◆◇マイナスの財産の扱いについて◇◆
「相続」というと、多くの方が「親からお金や不動産をもらうこと」というプラスのイメージを持ちがちです。しかし、法律上、相続とは故人(被相続人)が持っていた財産上の「権利」と「義務」のすべてを引き継ぐことを意味します。
つまり、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や未払金といったマイナスの財産(負債)も、例外なくすべて相続の対象に含まれます。
このマイナスの財産の扱いは、相続手続きにおいて最も注意が必要なポイントです。
負債も「法定相続分」で引き継がれる
故人に借金があった場合、その借金はプラスの財産と同様に、法定相続人によって法定相続分に従って自動的に分割されて引き継がれます。
例えば、法定相続人である子ども2人がいた場合、それぞれが借金の2分の1ずつを引き継ぎます。
この際、遺産分割協議で「長男がすべての財産と借金を引き継ぐ」と決めたとしても、債権者(銀行など)に対しては、その効力は原則として及びません。
債権者は、法定相続分に従って、それぞれの相続人に借金の返済を請求することができます。
マイナスの財産を相続しないための選択肢
もし、故人の財産を調査した結果、明らかに借金や負債が多額で、「とても相続できない」と判断した場合、相続人には以下の二つの選択肢があります。
1. 相続放棄
これは、プラスの財産もマイナスの財産も一切合切、すべて相続しないという意思表示です。
効果: 初めから相続人ではなかったとみなされます。これにより、借金を背負う義務から完全に解放されます。
注意点: 死亡を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。また、プラスの財産も一切受け取れなくなります。
2. 限定承認
これは、プラスの財産の限度内でマイナスの財産を引き継ぐという方法です。
効果: 故人の借金がどれだけ多くても、相続した財産以上に返済する義務はありません。
注意点: 相続人全員が共同で申述する必要があり、手続きが複雑です。こちらも3ヶ月以内の申述が必要です。
3ヶ月のデッドラインが極めて重要
相続放棄や限定承認の期限である
「相続開始を知ったときから3ヶ月」は、相続手続きにおける最初の、そして最も重要なタイムリミットです。
この3ヶ月の間に、相続人は故人の財産を徹底的に調査し、プラスとマイナスのどちらが多いのかを判断しなければなりません。
この期間を過ぎてしまうと、借金も含めてすべてを相続した(単純承認)とみなされ、後から多額の借金が発覚しても、原則として相続放棄ができなくなります。
【マイナスの財産の扱いまとめ】
相続財産には負債も含まれる。借金は法定相続分で自動的に分割される。
負債が多い場合は、3ヶ月以内に「相続放棄」または「限定承認」を検討する。
大切な家族を借金で困らせないためにも、生前に財産と負債を明確にしておくことが、最大の思いやりと言えるでしょう。


