遺言書作成・活用編③ 【失敗しない】自筆証書遺言の正しい書き方と保管の注意点
◆◇自筆証書遺言について◇◆
自筆証書遺言は、費用をかけずに手軽に作成できる点が魅力です。しかし、その「手軽さ」ゆえに、書き方を間違えてせっかくの遺言が無効になってしまうケースが非常に多く発生しています。
遺言書が無効になれば、残された家族は遺産分割協議を行うことになり、「争族」の火種になりかねません。ここでは、失敗しないための正しい書き方のルールと、最新の保管制度について解説します。
1. 無効を防ぐ!自筆証書遺言の「絶対条件」
自筆証書遺言を有効にするためには、民法で定められた以下の4つの要件を厳守する必要があります。一つでも欠けると無効となります。
1. 全文を自筆すること
財産目録以外の本文すべてを、遺言者本人が自分の手で書かなければなりません。パソコンや代筆は原則として無効です。
【例外】2019年の法改正により、財産目録についてはパソコン作成や通帳コピーの添付が認められました。ただし、目録のすべてのページに署名・押印が必要です。
2. 日付を明確に記載すること
遺言書を作成した「年月日」を正確に記載しなければなりません。「○月吉日」や「作成した日」といった曖昧な表現は無効です。
【重要性】遺言書が複数見つかった場合、最も日付の新しいものが有効になるため、日付は決定的に重要です。
3. 氏名を自筆すること
遺言者本人が、戸籍上の氏名を正確に自筆し、誰の遺言であるかを明確にします。
4. 押印すること
遺言書の全文の末尾に押印が必要です。実印でなくても構いませんが、後の手続きを考えると実印を使うのが確実です。
2. 内容面で失敗しないための書き方
形式が整っていても、内容が曖昧だとトラブルになります。
財産の特定を具体的に:
NG例: 「すべての財産を長男に譲る」
OK例: 「〇〇銀行〇〇支店の口座(口座番号:1234567)の預貯金全額を長男Aに相続させる。」
不動産は登記簿謄本通りに、所在、地番、地目、地積などを正確に記載します。
誰に、何をさせるかを明確に:
相続人の氏名、生年月日、続柄を正確に記載し、「誰に(相続させる)、何を(財産)」を明確に指定します。
「付言事項」で想いを伝える:
法的な効力はありませんが、「なぜこのような分け方にしたのか」という理由や家族への感謝のメッセージを添えることで、残された家族の納得感を高め、争いを防ぐ効果があります。
3. 保管の注意点:検認と保管制度
❌ 従来のデメリット:検認と紛失リスク
検認の必要性: 自宅などで保管されていた遺言書は、必ず家庭裁判所で「検認」を受けなければ、法的に使用できません。検認には手間と時間がかかります。
紛失・偽造リスク: 自宅保管では、紛失したり、発見者に都合よく改ざんされたりするリスクがありました。
✅ 新しい解決策:法務局での保管制度
2020年7月からスタートした「自筆証書遺言書保管制度」を利用することで、自筆証書遺言のデメリットの多くが解消されました。
法務局が保管: 遺言書を法務局が原本を預かり、紛失や偽造の心配がなくなります。
検認が不要に: 法務局が形式面のチェックを行うため、家庭裁判所の検認手続きが不要になり、相続発生後の手続きがスムーズになります。
◎手間をかけずに確実性を高めたいなら、「自筆で書く → 法務局に預ける」という手順を踏むことが、最も失敗しない方法だと言えるでしょう。


