遺言書作成・活用編④ 家族への「想い」を伝える遺言書の書き方:形式と内容の重要性
◆◇遺言書の書き方◇◆
遺言書は、単に「誰にどの財産を渡すか」を記した事務的な文書ではありません。それは、ご自身の死後もなお、残された家族の幸せと平穏を願う、「最後のメッセージ」であり、「家族へのラブレター」でもあります。
しかし、想いだけを綴っても、形式が間違っていれば遺言書は無効となり、逆に争いの種になってしまいます。ここでは、遺言書が持つ「形式の重要性」と「内容の重要性」のバランスの取り方を解説します。
1. 形式の重要性:効力を失っては意味がない
家族への想いを伝える前に、まずその遺言書が有効であることが大前提です。感情的なメッセージがどれだけ素晴らしくても、法的な要件を満たしていなければ、それはただのメモ書きになってしまいます。
【自筆証書遺言の場合、厳守すべき要件】
・全文、日付、氏名を必ず本人の自筆で書くこと。
・全文の末尾に押印すること。
・日付は「○月吉日」ではなく、「令和〇年〇月〇日」と明確に記載すること。
これらの形式要件が一つでも欠けると、遺言書は無効となり、あなたのメッセージは家族に届く前に、遺産分割協議という話し合いの土俵に上がってしまうのです。
2. 内容の重要性:争いを防ぐ「付言事項」
形式的に有効な遺言書ができたとしても、財産の分け方が一方的だったり、理由が不明確だったりすると、かえって不公平感が募り、遺言書があっても揉めることになります。
ここでカギとなるのが、「付言事項(ふげんじこう)」です。
付言事項とは、法的な効力を持たないものの、遺言書に添えることができる家族へのメッセージのことです。ここにこそ、あなたの「想い」を込めましょう。
【付言事項に書くべき内容】
1.分割の理由を説明する
「なぜ長男に不動産を集中させたのか」「なぜ長女に多く預金を渡すのか」といった、分け方の理由を説明することで、他の相続人の納得感が高まります。
2.感謝と謝罪の言葉を伝える
長年の介護に対する感謝や、寂しい思いをさせたことへの謝罪など、感情的なメッセージを伝えることで、家族のわだかまりが解消されやすくなります。
3.今後の生活への願いを伝える
「財産を分けた後も、兄弟仲良く助け合って生きてほしい」「この家を大切にしてほしい」といった、未来への希望を伝えることで、家族の絆を繋ぐことができます。
3. 公正証書遺言で「想い」を確実にする
自筆証書遺言に付言事項を書いても、紛失や検認手続きの手間が発生します。あなたの「想い」を最も確実に、早く家族に届けるためには、「公正証書遺言」の作成を強くお勧めします。
公証人が法律に基づいて作成するため、形式不備で無効になる心配がなく、原本は公証役場に安全に保管されます。そしてもちろん、公証人立ち会いのもと、付言事項であなたの心を込めたメッセージをしっかりと書き残すことができます。
◎遺言書は、財産の行く末を決めるだけでなく、残された家族の人間関係をも決める力を持っています。形式を整え、心のこもったメッセージを添えることで、あなたの「想い」を確実に未来へ繋ぎましょう。


